自動車の歴史は「軍事」から始まった
今や当たり前のように街を走る自動車。
でもその起源が18世紀のフランスで、しかも軍事目的だったと聞くと驚きませんか?
時は1769年。フランス国王ルイ15世の陸軍大臣はこう命じました。
馬に頼らず、大砲を自力で運べる車を開発せよ
この命令によって誕生したのが、世界初の“自動車”とされる
ファルディエ(キュニョーの砲車)です。
発明者は軍の技術者、ニコラ=ジョセフ・キュニョー
1725年生まれのキュニョーは、軍の技術者として要塞設計や大砲の管理に携わっていました。
当時の戦場では、大砲の運搬に多くの馬と人手が必要でした。

その非効率を目の当たりにしたキュニョーは、陸軍大臣の指示を受け、
「動力で動く車を使えばもっと早く・安全に運べるのでは?」と発想します。
蒸気の力で走る!ファルディエ(キュニョーの砲車)
キュニョーが開発した自走車の名前はファルディエ。
フランス語で「重い荷物を運ぶ台車」という意味で、まさに軍用の砲車として設計されていました。
- 全長:約7.2m
- 幅:約2.2m
- 重量:2.8トン超
- 動力:火で水を沸かし、蒸気の圧力でピストンを動かし、前輪を駆動
当時はまだ現在のような「エンジン」という言葉は使われておらず、
この“蒸気機関”を用いた構造こそが、自動車の原型といえるものでした。
前輪1つで操舵と駆動を両立させるという、実験的かつ野心的な構造でもあります。

世界初の試運転と、世界初の自動車事故
最初の試運転は、1769年にパリ郊外のヴァンヴで行われたとされ、翌1770年にも改良型が試されました。
そして起きたのが、まさかの――
壁に激突!
これが後に「世界初の自動車事故」として語られています。

出典:Wikimedia Comomons(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5b/Fardier_a_vapeur.gif)
その後も改良が試みられましたが、
- 蒸気の消費量が多すぎる
- ブレーキが弱く、止まりにくい
- 坂道に対応できない
といった問題が浮き彫りになっていきました。
支援の終了と兵器庫送り
この開発には軍の支援がついていましたが、
キュニョーの支援者であった陸軍関係者が次々と退任したことで、計画は自然消滅。
ファルディエ(キュニョーの砲車)はその後、アーセナル兵器庫に保管され、
1800年ごろにパリの工芸美術館(Conservatoire National des Arts et Métiers)に移され、 1801年から展示されて現在も保存されています。
キュニョーのその後と“世界初”の功績
キュニョーはその後も発明・研究に取り組みましたが、ファルディエを超える成果は残せませんでした。
1804年、彼は静かにこの世を去ります。子孫はおらず、名声を得ることもありませんでした。
しかし彼の作った“砲車”は、
現代の自動車の始まりとして歴史に刻まれています。
現在、ファルディエ(キュニョーの砲車)はパリの工芸美術館にて展示されています。


まとめ:キュニョーが残した“世界初”の挑戦
1769年、キュニョーは「ファルディエ(キュニョーの砲車)」を完成させ、
人類で初めて“自動で動く車”を走らせた人物として歴史に名を刻みました。
初の試運転は失敗に終わったものの、
その挑戦は現代の自動車技術の原点といえる“最初の一歩”。
今もその実車はパリの工芸美術館に大切に保存されています。https://www.arts-et-metiers.net/musee/fardier-vapeur
ちなみに――
この「キュニョーの砲車」の模型も一時は販売されていました。
(現在は販売されていないものの、中古品が稀に出回ることもあるそうです)
250年前のフランスで始まった“車の物語”。
それを知ると、いつものドライブもほんの少し特別に感じられるかもしれませんね。